人口減少や高齢化、商店街の空き店舗増加、地域産業の担い手不足など、日本各地で地域活性化に向けた取り組みが進められています。
地域活性化というと、観光客を呼び込むイベントや特産品のPRを思い浮かべるかもしれません。しかし、地域の課題は一つではありません。企業誘致による雇用創出、空き店舗を活用した起業支援、交通手段の確保なども重要な取り組みです。
実際に成果を上げている地域では、地域固有の資源や課題を踏まえ、行政・企業・住民がそれぞれの役割を担っています。
この記事では、国土交通省や農林水産省、中小企業庁などの公表資料をもとに、全国の地域活性化事例8選と、取り組みから学べる成功のポイントを紹介します。
地域活性化とは?
地域活性化とは、地域が抱える課題の解決や、経済・社会活動の活発化を通じて、地域の魅力と暮らしやすさを高めていく取り組みです。
観光や商業の振興だけでなく、雇用の創出、移住・定住の促進、公共交通の維持、地域コミュニティの形成など、幅広い分野が対象になります。
地域活性化と地方創生の違い
地域活性化は、地域経済や暮らしの改善につながる活動を幅広く指す言葉です。
一方、地方創生は、人口減少や東京圏への人口集中などの課題に対応し、地域に仕事と人の流れを生み出すことなどを目指す国の政策として推進されてきました。
両者は密接に関係していますが、地域活性化は必ずしも人口増加だけを目的とするものではありません。人口が減少する地域でも、住民が安心して暮らせる環境を維持することは重要です。
全国の地域活性化の成功事例8選
地域活性化の方法は、地域の資源や課題によって異なります。まずは今回紹介する8つの事例を一覧で確認しましょう。
| 地域 | 主な取り組み | 分野 |
|---|---|---|
| 香川県三豊市 | 観光資源の活用と地域交通の整備 | 観光・交通 |
| 新潟県十日町市 | 芸術祭を通じた地域交流 | 文化・観光 |
| 静岡県浜松市 | 空き店舗を活用した創業支援 | 商店街 |
| 徳島県神山町 | サテライトオフィスの誘致 | 移住・雇用 |
| 岡山県西粟倉村 | 森林資源を活用した産業づくり | 地場産業 |
| 岩手県紫波町 | 公民連携による駅前開発 | まちづくり |
| 富山県富山市 | 公共交通を軸とした都市づくり | 交通・都市計画 |
| 高知県梼原町 | 住民主体による生活サービスの維持 | 地域コミュニティ |
1. 香川県三豊市|観光資源と地域交通を組み合わせた取り組み
香川県三豊市は、父母ヶ浜(ちちぶがはま)を中心とした観光資源の活用と、地域住民の生活を支える交通サービスの整備に取り組んでいます。
父母ヶ浜は、干潮時に水面が空を映す美しい景観がSNSで広まり、観光スポットとして知られるようになりました。
一方、観光客が増えるだけでは、地域住民の暮らしに関する課題が解決するとは限りません。
三豊市では、2022年から地域企業が連携し、AIを活用した予約型の乗合交通サービスを展開しています。中高生の通学や高齢者の買い物といった生活上の移動に加え、観光客の交通手段としても活用されています。
国土交通省の「国土交通白書2023」では、父母ヶ浜を中心に増大する観光客について、2022年度は約50万人と紹介されています。
参考になるポイントは、観光による人の流れを、住民の生活環境を支える仕組みづくりにも結び付けていることです。 観光客向けの施策と住民向けの施策を別々に考えるのではなく、共通する課題からサービスを設計する方法が参考になります。
出典:国土交通白書2023「生活サービスを『共助』で育むサステナブルなまち」
2. 新潟県十日町市|芸術祭を通じて地域資源を観光につなげる
新潟県十日町市を含む越後妻有地域では、2000年から「大地の芸術祭」を開催しています。
この芸術祭では、里山の自然や棚田、空き家、廃校などを活用したアート作品が地域内の各地に設置されます。
訪問者は作品を巡りながら地域を移動し、自然景観や食文化、集落の暮らしに触れることができます。
芸術祭は観光客との接点を生み出すだけでなく、作品制作や運営に携わる住民と地域外の人々が交流する機会にもなっています。
国土交通白書2021では、芸術祭に加え、地域おこし協力隊や空き家を活用したお試し移住など、十日町市の複数の取り組みが紹介されています。
同資料では、2020年度に約150人が十日町市へ移住したことも報告されています。ただし、この人数は芸術祭単独の効果を示すものではありません。
参考になるポイントは、地域に点在する自然・文化・建物を、一つの観光体験として結び付けていることです。 新たな観光施設を建設するだけでなく、既存の地域資源を組み合わせる発想が重要といえます。
出典:国土交通白書2021「十日町市への移住者が多い理由とは?」
3. 静岡県浜松市|空き店舗を活用した商店街の活性化
静岡県浜松市天竜区の「クローバー通り商店会」は、空き店舗を活用した新規創業支援によって商店街の活性化を進めてきました。
地域では、人口減少や産業構造の変化、大型商業施設の影響などによって空き店舗が増加していました。
そこで、商店会は行政などと連携し、コワーキングスペースや起業相談の機能を備えた「天竜トライアルオフィス」を商店街内に誘致しました。
取り組みの特徴は、単に空き店舗を紹介するのではなく、創業希望者の事業計画や地域との相性も踏まえて出店を支援していることです。
中小企業庁の公表資料によると、2020年から2024年3月までに6店舗が開業し、さらに2店舗で改修が進められていました。
新しい業態の店舗が増えたことで、従来とは異なる来街者層が見られるようになり、新規店舗と既存店舗による商品面での連携も生まれています。
参考になるポイントは、空き店舗の数を減らすことだけを目的にせず、開業後も地域で事業を続けられるよう支援していることです。
4. 徳島県神山町|サテライトオフィスの誘致による雇用創出
徳島県神山町では、通信環境の整備と空き家・古民家の活用を組み合わせ、IT企業などのサテライトオフィス誘致に取り組んできました。
高速通信環境が整えば、都市部にある企業の業務を地方でも行えるようになります。
神山町では、古民家などをオフィスとして活用するほか、地域のNPOによる移住支援なども行われてきました。
内閣府の2021年公表資料によると、2019年度時点で町内には14社のIT企業が進出していました。
企業誘致によって仕事の選択肢が増えるだけでなく、移住者が地域の店舗やサービスを利用することで、新たな経済活動につながることも期待できます。
参考になるポイントは、企業に移転を求めるだけでなく、企業が地方で働くために必要な通信環境と生活支援を組み合わせていることです。
出典:内閣府「地方分散型の活力ある地域社会の実現に向けた地方創生の取組」
5. 岡山県西粟倉村|森林資源を活用した新たな産業づくり
岡山県西粟倉村は、森林を地域経済の資源として活用している事例です。
村の面積の約93%を森林が占める西粟倉村では、2008年に「百年の森林構想」を打ち出しました。
森林所有者から村が森林を預かって管理を行う仕組みを整え、間伐材を使った家具や内装材の商品開発などを進めています。
また、森林を中心とした地域づくりの理念に共感する人々が集まり、起業や移住にもつながっています。
林野庁の公表資料によると、2006年以降、2020年3月までに村内で35のベンチャー企業が生まれました。また、当時の人口1,443人に対して、移住者とその子どもが約1割を占めていました。
参考になるポイントは、森林を守る活動と、地域に仕事を生み出す活動を連携させていることです。 地域資源を活用した商品開発や起業を通じて、産業の広がりを生み出しています。
6. 岩手県紫波町|公民連携による駅前エリアの再生
岩手県紫波町では、駅前の未利用町有地を活用した「オガールプロジェクト」が進められてきました。
このプロジェクトでは、行政と民間事業者が役割を分担し、図書館や交流施設、商業施設などを組み合わせた複合開発に取り組んでいます。
当初の課題は、未利用地の活用や役場庁舎、図書館の整備でした。
町では、公民連携による事業の可能性を検討するとともに、住民との意見交換や企業立地に関する調査を実施しました。
国土交通省の公表資料によると、計画策定に向けて2007年から2008年にかけて住民との意見交換を100回行っています。
また、2019年公表の資料には、駅前施設で年間95万人を超える集客を実現したことが記載されています。
参考になるポイントは、公共施設の整備を単独で考えるのではなく、民間事業の成立可能性や住民ニーズを踏まえて、エリア全体を開発していることです。
出典:国土交通省「自治体等による民間まちづくり支援の取組み事例」
7. 富山県富山市|公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり
富山県富山市は、公共交通を軸としたコンパクトな都市づくりの代表的な事例です。
人口減少や市街地の拡大が進むと、公共交通や生活サービスを維持するための負担が大きくなります。
富山市では、公共交通の利便性が高い地域への居住を促すとともに、路面電車やバスなどの交通ネットワークの整備を進めました。
国土交通白書2015によると、富山ライトレールの整備後、開業前と比較して路線の平均利用者数が平日で約2.1倍、休日で約3.5倍に増加しました。
また、中心市街地や公共交通沿線の居住推進地区では、人口の社会増減が転入超過に転じる動きも報告されています。
参考になるポイントは、交通サービスの改善と住まい・商業・生活機能の配置を一体的に考えていることです。 単に施設を増やすのではなく、既存の都市機能を利用しやすくすることも地域活性化につながります。
出典:国土交通白書2015「コンパクト+ネットワークの事例」
8. 高知県梼原町|住民主体で地域の生活サービスを維持
高知県梼原町の四万川地区では、住民が主体となって地域の生活サービスを維持する取り組みが進められてきました。
同地区では、2013年に地域で唯一の給油所が廃業したことで、ガソリンや冬季の灯油の確保が課題になりました。
そこで地域住民が検討を重ね、住民出資による株式会社を設立し、ガソリンスタンドや地場産品販売などの事業を始めました。
ガソリンの給油だけでなく、タイヤ交換や生活用品の販売など、地域の日常生活を支えるサービスも提供しています。
この取り組みは、国土交通白書2015に「小さな拠点」の事例として掲載されています。
参考になるポイントは、地域で失われかけた生活機能を住民自らが維持する仕組みをつくったことです。 地域活性化は観光客や移住者を増やすことだけでなく、今住んでいる人の生活を支えることも含まれます。
地域活性化の成功事例に共通する5つのポイント
ここまで紹介した事例は、取り組みの内容も地域の規模も異なります。しかし、比較すると参考になる共通点があります。
1. 地域の課題を明確にしている
地域活性化の出発点は、イベントや施設の企画ではなく、地域が抱える課題を把握することです。
たとえば、商店街の空き店舗が多い場合でも、原因が出店希望者の不足なのか、物件を借りられないことなのかによって対策は変わります。
浜松市の事例では、創業希望者の相談対応だけでなく、空き店舗の所有者との調整まで行っています。
課題を具体化することで、必要な施策を選びやすくなります。
2. 地域にある資源を活用している
自然、文化、歴史、建物、産業など、地域にはさまざまな資源があります。
十日町市では里山や空き家、廃校をアートと組み合わせ、西粟倉村では森林を産業づくりに活用しています。
新しい施設や観光資源を一からつくるだけでなく、既存の資源に新しい役割を持たせることも有効です。
3. 行政・企業・住民が連携している
地域活性化は、行政だけで完結するものではありません。
行政には制度整備や公共サービスの提供、企業には事業運営や雇用創出、住民には地域の実情に即した活動など、それぞれ異なる役割があります。
紫波町の公民連携や梼原町の住民出資による事業は、課題に応じた役割分担の参考になります。
4. 一時的な集客で終わらせない仕組みがある
イベントの参加者が増えても、その成果が地域の経済活動や暮らしの改善につながるとは限りません。
観光客が地域の店舗を利用する、移住者が地域で働く、新規創業者が事業を継続するなど、施策の実施後に何が起きるかが重要です。
地域活性化を継続するには、単発の集客だけでなく、来訪や購買、交流が繰り返される仕組みを考える必要があります。
5. 取り組みの成果を確認している
地域活性化の成果は、施策の目的に応じて評価する必要があります。
観光施策であれば来訪者数や地域内消費額、商店街の活性化であれば新規出店数や店舗の継続率、移住促進であれば移住者数や定住状況などが指標になります。
また、公共交通や生活サービスの維持を目的とする場合は、利用状況や住民の利便性を確認することも欠かせません。
地域活性化の取り組みを始める5つのステップ
地域活性化を進める場合、他地域の成功事例をそのまま導入するのではなく、自分たちの地域に適した方法を検討することが重要です。
STEP1. 地域の現状と課題を把握する
人口動態、産業、商店街、交通、観光などの現状を調べ、優先して解決すべき課題を整理します。
統計データに加え、住民や事業者へのヒアリングも役立ちます。
STEP2. 活用できる地域資源を洗い出す
自然や歴史、文化、産業、公共施設、空き店舗などを確認します。
目立った観光名所がなくても、地域の産業技術や人材、日常の風景などが資源になる可能性があります。
STEP3. 取り組みの目的と成果指標を決める
観光客を増やしたいのか、地域内の消費を増やしたいのか、生活サービスを維持したいのかによって、実施する施策は異なります。
目的とあわせて、成果を確認するための指標も設定します。
STEP4. 実行体制を整え、小規模に始める
行政、地域企業、商店会、住民団体などの役割を整理し、実施体制を整えます。
最初から大規模な設備投資を行うのではなく、既存施設を使った実証や期間限定の取り組みから始める方法もあります。
STEP5. 成果を検証して改善する
施策の実施後は、設定した指標を確認します。
参加者数や売上だけでなく、費用、運営負担、利用者の継続状況などを踏まえ、継続・改善・終了を判断します。
地域活性化で注意したい3つの課題
事例の成功要因が自地域にも当てはまるとは限らない
有名な成功事例であっても、地域の人口規模や産業、交通環境、担い手などの条件が異なります。
施策の表面的な形を模倣するのではなく、どのような課題に対して、どのような仕組みが機能したのかを確認する必要があります。
事業の継続に必要な資金や人材が不足する
補助金や一時的な支援で事業を始められても、運営費や担い手を確保できなければ継続が難しくなります。
開始時点から運営体制や収益、費用負担を検討することが重要です。
集客人数だけで成功を判断してしまう
観光客数やイベント参加者数はわかりやすい指標ですが、それだけでは地域への効果を十分に評価できません。
地域内での消費、雇用、住民の生活環境など、取り組みの目的に合った複数の指標を確認しましょう。
地域活性化に関するよくある質問
地域活性化にはどのような取り組みがありますか?
観光振興、特産品のブランド化、商店街の再生、企業誘致、起業支援、移住促進、公共交通の整備、住民交流の促進などがあります。
地域の課題や資源に応じて、複数の取り組みを組み合わせることもあります。
地域活性化の成功事例にはどのような共通点がありますか?
今回紹介した事例では、地域固有の課題を把握し、既存の資源を活用している点が共通しています。
また、行政や民間事業者、住民などが役割を分担し、施策を継続する仕組みを整えていることも特徴です。
お金をかけずにできる地域活性化のアイデアはありますか?
既存の施設を使った交流イベント、地域資源の情報発信、空き店舗を活用した期間限定の出店、住民参加型のまち歩きなどが考えられます。
ただし、設備投資が少なくても、人件費や運営負担が発生する場合があります。継続可能な実施体制を考えることが大切です。
地域活性化の成功は何で判断できますか?
取り組みの目的によって異なります。
観光振興なら来訪者数や地域内消費額、産業振興なら売上や雇用、新規創業支援なら出店数や事業継続率などが考えられます。
住民の暮らしを支える施策では、生活サービスの利用状況や利便性なども重要な指標になります。
まとめ|地域活性化の事例から自地域に合った方法を考えよう
地域活性化には、観光振興や商店街の再生だけでなく、雇用創出、産業振興、公共交通、生活サービスの維持など、さまざまな方法があります。
今回紹介した8つの事例からも、人口規模や地域資源、課題に応じて異なる取り組みが行われていることがわかります。
重要なのは、有名な成功事例をそのまま模倣することではありません。
地域で何が課題になっているのか、どのような資源や人材を活用できるのかを把握し、継続できる仕組みをつくることが、地域活性化を進めるうえでの基本になります。
